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第2回磁性アタッチメントインプラント...

2018.11.11

本日、丸ビルホールにて第2回磁性アタッチメントインプラント学術大会に出席して参りました。
今日は、他のインプラントセミナーも多数行われているにもかかわらず、本講演は満員御礼でした。
従来の入れ歯は、天然歯にバネをかけて維持するものでしたが、インプラントオーバーデンチャー(IOD)とはインプラントを土台として入れ歯を維持するものです。
インプラントオーバーデンチャーの維持装置としては、
1. ボールアタッチメント
2. バーアタッチメント
3. ロケーターアタッチメント
4. 磁性アタッチメント
などがあります。
その中の磁性アタッチメントインプラントとは、インプラントを土台としてインプラントと入れ歯を磁石で維持する入れ歯のことです。

〈内容〉
「磁性アタッチメントの積極的活用法成功のための7つの勘所」
田中讓治先生
一般社団法人日本インプラント臨床研究会会長施設長

磁性アタッチメントでは、超有名な先生でインプラント義歯に関する書籍も多数出版されています。
1. インプラント適応症拡大及び患者へのモチベーションアップ
通常のクラスプ義歯では困難なケースでもインプラントを1本埋入するだけでも義歯の安定維持が可能となります。
また、クラスプがなくなり審美的にも満足し、上顎総義歯においてはインプラントの本数しだいで無口蓋義歯にすることもできます。
認知症や半身麻痺などで入れ歯の着脱が困難になった場合でも、磁性アタッチメントではクラスプ義歯の取り外しより容易に着脱を行うことが可能となります。

2. インプラントの植立部位及び本数の原則
下顎では骨が硬いため総義歯でも2本以上から4本で十分な維持安定が可能です。
上顎では骨が軟らかいため総義歯では4本以上のインプラントが必要となります。
また、ボーンアンカードブリッジ(インプラントを土台としたブリッジ)の場合では、天然歯と連結することは禁忌ですが、磁性アタッチメントインプラントオーバーデンチャーでは天然歯にも磁性アタッチメントをつけた組み合わせでも可能となり、適応症は拡大されます。

3. 免荷期間中の重要ポイント〈ガーゼ法〉
4. 手術後、抜糸までの重要ポイント
インプラントオーバーデンチャーを行うほとんどの症例は、無歯顎もしくは多数歯欠損となりますので、インプラント埋入手術後から義歯を使用する必要があります。
以前の方法では、インプラント埋入手術後にインプラントに外力がかかるの避けるため1ヶ月以上は義歯の使用はできず流動食の摂取となっておりました。
田中讓治先生が考案されたガーゼ法では、インプラント埋入直後から義歯を使用するという方法で、それはインプラント埋入部位の義歯を大きくくり抜いて、埋入部粘膜にガーゼを当てティッシュコンディショナーでくり抜いた部分を埋めます。
そして手術当日は、食後も就寝時も絶対に義歯を外さず、清掃は義歯を装着したままでの嗽のみです。
2日目からは食後のみ義歯を外しての清掃を行い、それ以外は義肢は装着したままで10日間これを続け、その後抜糸をします。
この方法により術後に腫脹して既存義歯が入らなくなるということもなくなり、術後腫脹も義歯で軟膜も圧迫されて軽減するという斬新なアイデアです。

5. マグネット取り付けの勘所
術者が一番神経を使うところです。
マグネット装着部位の義歯に屯路はつけずにレジンキャップを製作して、弾性材料でマグネットを接着させ、よりインプラントのキーパーと義歯のマグネットが密着する位置でのマグネット装着方法です。

6. 無口蓋義歯の製作ポイント
無口蓋義歯とは、上顎の総義歯でうわアゴ部分をくり抜いた総義歯のことです。
通常の粘膜負担のみの総義歯では、吸盤方式で入れ歯を維持しなければならないので、うわアゴ部分をくり抜いてしまうと維持が大きく損なわれるか全く維持できず落ちてしまいます。
しかし、総義歯でもインプラントを埋入すれば吸盤方式と併用することによって、入れ歯のうわアゴ部分をくり抜くことができ、今までの総義歯にない装着感が得られます。
また、発音障害も軽減され、舌がうわアゴに直接接触する爽快感や温冷感が復活します。
当然それによる味覚や食感も大きく変化して食事がおいしく召し上がれます。
下顎のインプラントオーバーデンチャーは、2本以上のインプラント埋入で義歯を製作することが可能ですが、上顎の骨は軟らかいため4本以上のインプラントが必要とされています。
無口蓋義歯にするには、4本以上のインプラントを埋入し、埋入位置は可能であるなら両側の上顎最後方臼歯部と両側の犬歯部、あるいは両側の臼歯部に2本づつですが、上顎の無歯顎患者では大臼歯部の垂直的骨吸収が進行しているため、上顎洞挙上術を行わなければ埋入することができません。
インプラントオーバーデンチャー適用年齢は高齢者がほとんどですので、外科的侵襲が大きい上顎洞挙上術は避けたいものです。
また、そこまでリスクを侵してここにインプラントを埋入する必要性はないと思いますので、上顎前歯部に4本でのインプラント埋入でも無口蓋義歯にすることは可能ですが、その場合の原則は義歯の床縁は必ず上顎結節を覆うことです。

7. ユニバーサルサポートへの配慮

●磁性アタッチメントインプラントオーバーデンチャーの有用性と注意点
有用性は、バーアタッチメントやボールアタッチメントそしてロケーターアタッチメントと異なり、有害な側方力を逃がして取り外ししやすく、しかもメインテナンスがしやすいことで、インプラント埋入方向の平行性が悪くても適応が可能なことです。
また、クラスプがないため審美性に優れ、少数のインプラントで高い効果が期待でき、インプラント義歯の適応症が拡大されます。
そして、アタッチメントとしては長期使用でも維持力の減衰がほとんどありません。

注意点としては、術後の免荷期間に負荷を与えないことが重要なポイントで、術後10日間は含嗽以外は義歯を外さないことです。
どのアタッチメントでも同様ですが、維持装置の装着に十分注意することです。
(特にバーアタッチメントの装着はかなりの注意が必要となります。)

「磁性アタッチメントの国際規格制定・発行」
水谷紘先生
NPO法人入れ歯でカムカム会理事長
かつて海外での磁性アタッチメントは、品質が悪くステンレスのコーティングから磁力体の漏洩が報告されインプラント体に悪影響を及ぼすため、海外では普及率は低いものでした。
愛知製鋼の磁性アタッチメントは、レーザー加工によりそのような漏洩はほとんどなく磁力も低下しないことから、海外でも注目されているとのことです。

●磁性アタッチメントインプラントオーバーデンチャーの有用性と注意点
有用性として、磁性アタッチメントは他のアタッチメントと異なり平行性が多少なくても義歯を維持することが可能なため、フィクスチャーの埋入方向の自由度が大きくなり、インプラント埋入方向が骨のある安全な位置に埋入することができるので骨造成などを回避することができます。
そして、他のアタッチメントのように強い力で外す必要がないので、義歯の着脱が容易なので高齢者・障害者に最適な維持装置です。
また、他のアタッチメントはボタン方式なので長期の反復着脱により摩耗して維持力が低下してしまい、アタッチメントの交換が必要となりますが、それに比べ磁性アタッチメントにおいては維持力が減衰しにくい利点があります。
注意点としては、他のアタッチメントと比べ磁石なので側方の維持はないので、維持力は弱くなります。
これは磁性アタッチメントの良いところでもあり弱点でもあります。

「インプラントオーバーデンチャーで超高齢社会を救えるか?」
前田芳信先生
大阪大学歯学部付属病院口腔総合診療部教授

1. IOD(インプラントオーバーデンチャー)を高齢者に積極的に適用できるのか?
2. IODは短期、長期の変化に対応できるのか?
3. 口腔内の環境改善と維持に寄与できるのか?
4. 栄養摂取を介して体力の維持と増強に寄与できるのか?
5. 栄養摂取を介して全身の健康改善維持に寄与できるのか?
6. 咬合支持を介して全身のバランスに寄与できるのか?
7. 咬合支持を介して認知機能の維持に寄与できるのか?

興味深い報告として、多数歯欠損患者において義歯やインプラントなど何らかの補綴処置を行っていない人の食生活は、咀嚼しなくても容易に摂取できる糖質の多い食べ物に偏るという結果が報告され、この高カロリー摂取と栄養バランスの偏りにより一層全身状態に悪影響を与えるということでした。
先生が面白いことをおっしゃっていましたが、スーパーの食品売り場にいる人を見学してみると、糖質の多い食品ばかりをかごに入れている人は歯がなく、肥満の人がほとんどということです。
また、片側のみの欠損を放置している患者は、平均的な両側咬合支持欠如のため平衡感覚が不安定になり、転倒しやすくなるという驚くべき報告でした。

●磁性アタッチメントインプラントオーバーデンチャーの有用性と注意点
有用性として、磁性アタッチメントは着力点を低く設定できるため汎用性の高いアタッチメントです。
ボーンアンカードブリッジよりも清掃が容易で、磁性アタッチメントは他のインプラントアタッチメントより高径が低くても可能なので応用範囲が拡大されます。
注意点として、磁性アタッチメント有りきではなく、あくまでも従来の総義歯の製作に準じて望むことが必要不可欠です。

「可撤性インプラント上部構造で患者は満足するのか 固定性との比較から考える」
樋口大輔先生
昭和大学歯学部歯科補綴学講座講師

可撤性インプラント上部構造すなわちインプラントオーバーデンチャーと固定性インプラント上部構造であるボーンアンカードインプラントブリッジの患者満足度の比較についてです。
固定性のインプラントブリッジの方がはるかに患者満足度が良いと思いきや、調査したところインプラントオーバーデンチャーの満足度もそこまでとはいかないもののかなり満足された結果となりました。
インプラント手術及び上部構造の平均的な費用は、インプラントオーバーデンチャーで81万円程度からで、インプラントブリッジでは289万円からと3倍以上の開きがありました。
この金額の差より患者満足度はインプラントブリッジがインプラントオーバーデンチャーの3倍という開きはないので、インプラントオーバーデンチャーがいかにコストパフォーマンスに優れていることがわかります。
また、費用だけではなく手術時の外科的負担は、本数が少ないインプラントオーバーデンチャーの方が当然軽減され、骨造成のリスクも回避されます。
当クリニックでもこのような理由から多数歯欠損の方にはインプラントオーバーデンチャーを勧めております。

●磁性アタッチメントインプラントオーバーデンチャーの有用性と注意点
有用性はボーンアンカードインプラントブリッジと比較して、少ない外科的侵襲と低コストであることが大きな点です。
また、術者可撤式であるため清掃性が非常に良く、患者本人の清掃が非常に楽であることと将来患者が寝たきりなどの要介護者になった場合でも、介護者の口腔ケアが固定性インプラントブリッジより数段しやすいことは、超高齢化社会に於いて非常に有用性があります。
磁性アタッチメントは、他のインプラントアタッチメントに比べ維持力が半永久的に持続するためランニングコストが抑えられます。
また、義歯の着脱においては装着時は磁力による誘導があるのでご老人でも簡単に行え、取り外しも片手で行えるので半身麻痺の方でも非常に楽であるという大きな利点があります。
注意点は、磁性アタッチメントのインプラント部に装着されるキーパーによるMRI撮影時にアーチファクトと言われる不鮮明な画像におけるキーパー周辺の診断が不可能になることです。
天然歯におけるキーパーでは、これを解消するにはキーパーを撤去する必要がありますが、インプラント体に装着されるキーパーはスクリュー固定ですので、MRI撮影時にキーパーを専用ドライバーで外せば、撮影は可能となるのでさほど問題ではありません。
清掃性では固定性のものより遙かに良好ですが、キーパーのマージン部の清掃を怠ってはなりません。

「IODの長期経過症例から得られた知見について」
藤野修先生
岩手医科大学歯学部臨床教授

歯周病患者におけるインプラント治療では、ほとんどの症例で顎骨欠損が見られるので、固定性のボーンアンカードインプラントブリッジにするためには、何らかの骨造成を伴ったインプラント治療となります。
それに比べて可撤性のインプラントオーバーデンチャーでは、少数のインプラント体で維持するので、骨造成を行わないですむ部位にインプラントを埋入するだけで大きな効果を発揮することが可能となります。
また、埋入位置もボーンアンカードインプラントブリッジのようにピンポイントで埋入する必要がないので応用範囲も拡大され、術者としても難症例を回避することができます。
そして部分欠損の場合では、通常のクラスプ義歯にするとクラスプによる側方圧で天然歯に過剰な負担がかかり、欠損歯の拡大が連鎖していきます。
しかし、クラスプをかけずにインプラントオーバーデンチャーにすれば、残存歯の負担が大幅に軽減され天然歯の保存が可能となり、欠損歯の拡大を防ぐことができます。
また義歯を粘膜負担にした場合では、義歯床の粘膜下の骨は必ず大きく吸収してしまいますが、インプラントオーバーデンチャーではインプラント体に義歯床を乗せることにより粘膜の負担を減少させ骨の垂直的吸収を10倍以上軽減することができます。

●磁性アタッチメントインプラントオーバーデンチャーの有用性と注意点
固定式のインプラント上部構造と比較してイニシャルコストを抑えることができ、患者の経済的負担及び外科的侵襲を大幅に削減して機能回復を図ることが可能です。
特に磁性アタッチメントは他のアタッチメントに比べ、3次元的に理想的な位置に埋入すれば、パーツの消耗がほとんどなく、長期間にわたりパーツの交換が不要でランニングコストが抑えられます。
注意点として、通常の歯牙粘膜負担の義歯よりもインプラントオーバーデンチャーは、装着後比較的早期から人工歯の摩耗が生じるのでメインテナンスの必要性があります。
しかしそれは、インプラントにより粘膜と骨の負担が軽減されている証拠であり、バイオロジカルコストの削減に他なりません。
※バイオロジカルコストとは、金銭的なコストではなく義歯床を使用することによる顎堤の吸収すなわち機能を果たすことによる生物学的な代償のこと

「インプラントオーバーデンチャーにおける正確な下顎位の診断と最終補綴への移行」
松嶋典彦先生
日本口腔インプラント学会会員

インプラントオーバーデンチャーのロケーターアタッチメントおよび磁性アタッチメントインプラントオーバーデンチャーの症例発表

●磁性アタッチメントインプラントオーバーデンチャーの有用性と注意点
ボーンアンカードインプラントブリッジにするよりも低侵襲性・対費用効果・清掃性に優れ、超高齢化社会においても身体精神面でのQOLの向上と健康長寿に寄与が期待されます。
また維持安定性に優れ、顎堤の沈下を起こしにくいため天然歯列と同様の咬合接触と咬合様式を再現することができます。
注意点として、MRI撮影時の磁性アタッチメントキーパーの影響があることや就寝時にインプラントオーバーデンチャーを外したときによる対合歯とキーパーとの接触による負担過重への対応が必要です。
そしてインプラントオーバーデンチャー全般にいえることですが、アタッチメントへの負担過重による義歯破損への対応策としてメタルフレームの補強は絶対に必要となります。
術者はアタッチメントを義歯床に取り付けるのに熟練が必要ですが、磁性アタッチメントは他のインプラントアタッチメントに比較して楽に装着することができます。

「咬合崩壊症例におけるマグネットオーバーデンチャー活用に関する臨床報告」
坂田輝之先生
日本口腔インプラント学会会員

インプラントオーバーデンチャーではなく、天然歯支台のみのマグネットオーバーデンチャーの症例発表

「無歯顎症例に於いてコストを抑えたインプラント治療のいくつかの設計について」
水口稔之先生
水口インプラントセンター理事長

●磁性アタッチメントインプラントオーバーデンチャーの有用性と注意点
有用性
1. コストパフォーマンスが高い
2. 維持力が減少しない
3. 術式がシンプルである
4. 比較的インプラント埋入方向に自由度がある
5. 過度な力からインプラントを守れる
注意点
1. 操作時に熱を加えると磁力が減少する
2. アタッチメントセット時にブレがあると維持力が低下する

「インプラントオーバーデンチャーの臨床 ロケーターアタッチメントとマグネットアタッチメントの比較」
小坪義博先生
こつぼ歯科ANNEX

かつてのインプラントオーバーデンチャーは、バーアタッチメントとボールアタッチメントが主流でしたが、磁性アタッチメントの品質の向上とボールアタッチメントより高さの低いロケーターアタッチメントの登場によりこの両者が主流となりつつあります。
また、コストの面でもバーアタッチメントは高額であり精密な技工技術とアタッチメントの装着には熟練した技術を必要としましたが、マグネットやロケーターアタッチメントでは、比較的操作が簡単に行えます。

●磁性アタッチメントインプラントオーバーデンチャーの有用性と注意点
有用性として、技工操作が簡単でボーンアンカードインプラントブリッジに比べて部品数が少なくコストパフォーマンスに優れています。
チェアータイムも製作日数もボーンアンカードインプラントブリッジと比較して短く、かつ舌感が気にならないことが多いことです。
ボーンアンカードインプラントブリッジは固定性であることが最大の利点ですが、天然歯支台のブリッジと大きく異なるのは、天然歯よりインプラントの直径は遙かに小さいため、インプラント間の間隙が広くなるので、舌がこの間隙に触り舌感が悪くなることです。
インプラントオーバーデンチャーでは、義歯床でその間隙は封鎖されるので舌感は良好となります。
また、ボーンアンカードインプラントブリッジではインプラントの埋入位置は上部構造の形態と咬合関係に大きな影響を及ぼすため、ピンポイントでの埋入が必須となり、より高度な治療技術が術者に求められますが、インプラントオーバーデンチャーでは、そこまでピンポイントの埋入では上部構造は左右されず、多少埋入位置がズレたとしても義歯床や人工歯で修正が可能なことです。
注意点として磁性アタッチメントインプラントオーバーデンチャーでは、インプラント体の連結固定ができないので複数のインプラント体の場合、インプラント同士の力の分散ができないことです。
また、維持力は他のインプラントオーバーデンチャーのアタッチメントの中では、最も低いことです。
しかしこれは、磁石ならではの垂直方向の力には抵抗はしますが、水平方向の力は逃がすという利点も兼ね備えています。

「補綴難症例に対するインプラントオーバーデンチャーの臨床」
鈴木恭典先生
鶴見大学歯学部有床義歯補綴学講座講師

高度に顎堤が吸収した下顎の無歯顎症例や残存歯が存在してもすれ違い咬合の症例においては、義歯の維持安定が得られず、難易度が高い症例です。
下顎の無歯顎においては、インプラント体を2本埋入したインプラントオーバーデンチャーにすることにより義歯の維持安定が、劇的に改善されます。
通常のインプラントオーバーデンチャーのほとんどは、上下顎の無歯顎の症例で行われるケースがほとんどですが、無歯顎でない残存歯があるすれ違い咬合の症例でもインプラントオーバーデンチャーは非常に有用です。
すれ違い咬合では咬合力による義歯の回転を支台装置のみで抑えることは非常に困難ですが、欠損部特に遊離端欠損部にインプラントを1本埋入するだけで部分義歯の咬合支持を向上させ劇的に部分義歯の機能と安定性を確保することが可能となります。
また、それにより残存歯の保存にもつながり、すれ違い咬合ではなくとも将来すれ違い咬合への移行の防止対策としても、インプラントパーシャルデンチャー(IRPD)は有用です。

●磁性アタッチメントインプラントオーバーデンチャーの有用性と注意点
有用性は、患者自身の義歯の着脱が容易なので趣旨の巧緻性が低下している高齢者に便利なことです。
機能的にはクラスプデンチャーに比べて着力点が低いのでインプラント体に側方力が加わりにくく、インプラントの長期安定性が期待できます。
また、他のインプラントアタッチメントのバーアタッチメント、ボールアタッチメント、ロケーターアタッチメントでは摩擦力によりインプラントと義歯とを維持しているので、部品の摩耗による維持の低下は避けられず、アタッチメント部品の交換が必要となります。
それに比べ磁性アタッチメントは、摩擦力による維持ではなく磁力による維持なので、維持力の低下がほとんどなく、部品を交換することはほとんどないのでランニングコストを抑えることができます。
そして、他のアタッチメントより高径が低いので、クリアランスが低いケースでも応用が可能になります。
注意点としては、磁石構造体の義歯への取り付けが適切でないと大幅に維持力が低下してしまうので、術者の熟練性により維持力は左右されます。
それとMRI撮影時のアーチファクトの問題と他のアタッチメントより維持力が弱いことです。

「臨床研究から考えるインプラントオーバーデンチャー」
金沢学先生
マギル大学歯学部客員教授

カナダマギル大学による下顎インプラントオーバーデンチャーの即時荷重と通常荷重を比較する臨床研究の発表です。
即時荷重とは、インプラント埋入手術当日から上部構造を装着してしまうもので、その日からインプラントオーバーデンチャーで咀嚼が可能となります。
通常荷重とは、インプラント埋入時は旧義歯のインプラント埋入相当部を大きくくり抜いて義歯の咬合圧がインプラントにかからないようにして、約3ヶ月後オッセオインテグレーションしてからインプラントオーバーデンチャーを製作完成させる方法です。
即時荷重は、下顎のオトガイ孔間のインプラント埋入において可能なため、下顎無歯顎にインプラント体を2本埋入するケースにおいて有用です。
即時荷重ではすぐに十分な咀嚼が可能ですが、インプラントが脱落してしまうリスクがあります。
通常荷重では、インプラントが脱落するリスクは即時荷重よりはるかに減少しますが、最終補綴物ができるまで旧義歯を加工したものを使用するので義歯の安定性が悪いので食事が満足に行えないことがあげられます。
即時荷重と通常荷重を比較する臨床研究では、即時荷重を行ったグループに於いてはインプラント埋入後早期からQOLの改善が可能でしたが、インプラント周囲骨の吸収量はインプラント埋入1年後までは通常荷重に比べて即時荷重群の方が多い傾向であったようです。
しかし、3年経過後はどちらの群も骨吸収は同等になった結果が報告されました。
そうなると下顎無歯顎のインプラントオーバーデンチャーの製作において、オトガイ孔間にインプラントを埋入するなら即時荷重で行った方が患者満足度は上がります。
しかし十分注意することは、埋入時の初期固定とオステル値が十分な条件下で行うことで、条件が満たない場合は、通常荷重に切り替える必要があると思います。

●磁性アタッチメントインプラントオーバーデンチャーの有用性と注意点
他の演者と同様のため省略します。

「IARPDにおける磁性アタッチメントのデザイン」
亀田行雄先生
かめだ歯科医院

IARPDとはImplant assisted removable partial dentureのことでインプラントを支台として総義歯ではなく、インプラントを支台とした部分義歯のことです。
総義歯のインプラントオーバーデンチャーは、その有用性と患者のQOL向上で広がりつつあります。
一方、インプラントパーシャルデンチャー(インプラント部分義歯)においては、患者及び歯科医師の有用性についてまだ理解されていないのが現状と思います。
これは部分欠損にインプラントを埋入するのであれば、ボーンアンカードインプラントブリッジすなわちインプラントのブリッジにしなければ、あまり意味がないのでは?と歯科医師も患者も思うからです。
どうせ同じ部分義歯であるなら、手術をして高額なインプラント治療を行う必要性は感じず、これまで通りの部分義歯で良いのではと思われがちです。
患者の立場なら臨床的な知識がないのでしかたありませんが、歯科医師がそう思うのは全く認識不足です。
従来の部分床義歯では顎骨の吸収や支台歯の負担というバイオロジカルコスト(生物学的な代償)がかかります。
無歯顎になった患者は、誰もが急に全部歯が抜け落ちたわけではなく1本の欠損から始まり、ブリッジそして部分床義歯を経てついに無歯顎になっていきます。
これは従来の天然歯支台の補綴法によりバイオロジカルコストがかかった結果に他なりません。
そして、部分床義歯の使用により顎骨吸収を起こし将来予想される総義歯の維持安定性に悪影響を及ぼします。
欠損歯が拡大していき、総義歯になってようやく患者はこのバイオロジカルコストがかかってしまったことに気がつきますが、歯科医師がこうであってはなりません。
部分義歯の支台をインプラントにすれば、天然歯の負担軽減により欠損歯の拡大につながるのは明らかで、また特に遊離端欠損部にインプラントを1本埋入するだけで、顎骨吸収を大幅に軽減することができます。
多数歯欠損に及ぶボーンアンカードインプラントブリッジでは高額になりますが、インプラントパーシャルデンチャーでは1本から数本の少数のインプラント体で大きな効果が期待されます。
従ってインプラントパーシャルデンチャーは、比較的低価格でバイオロジカルコストの削減につながるのでコストパフォーマンスに優れた治療法といえます。
専門知識のある我々歯科医師は、患者にあった様々な治療法を提供してその利点欠点を十分説明して、患者に決めてもらういわゆるインフォームドコンセントを行わなければいけません。
インプラント治療を行っている歯科医師はもとより、行っていない歯科医師でもこのインプラント部分義歯は欠損補綴の選択肢として、今では説明する必要性が出てきていると思われます。

●磁性アタッチメントインプラントオーバーデンチャーの有用性と注意点
有用性としては、磁性アタッチメントは他のインプラントアタッチメントに比べ、維持・指示・把持の使い分けができることです。
また、上顎のインプラントオーバーデンチャーにおいてマグネットアタッチメントは、インプラントに側方力がかかりにくいので、長期安定性が期待できます。
下顎の臼歯部のインプラント支台のオーバーデンチャーは、強力な咬合支持を与えることが可能で、バイオロジカルコストの削減に貢献します。
注意点として、インプラントオーバーデンチャー全般にいえることですが、維持装置の補綴スペースを必要とするため、義歯の強度不足のため義歯の破損を生じやすいことです。